「アートの島」以前は「精錬の島」だった
第3回の「直島に住んで驚いたこと」で、「直島だからこそ」の意外な驚きがあったことをご紹介しました。近年こそ「アートの島」として国内外で有名になった直島ですが、実は「精錬の島」としての歴史のほうがずっと長いのです。
今回は、知られざる「精錬の島」としての直島の顔についてお話しします。
直島の経済基盤は「精錬業」
直島を知っている人や直島に行ったことがある人と話をすると、直島に精錬所があるとは知らず、直島の主産業がアートを軸とした観光業だと思っている人が少なくないことに気が付きます。
たしかに、観光業が直島にとって重要な意味をもつようになっているのは間違いありません。ところが「経済基盤」という観点からいえば、むしろ大正時代からの歴史をもつ精錬業が今も大きな存在感を放っているのです。
直島の人口は3,000人強。離島に住んだことがないと、この数字が多いのか少ないのかわからないかもしれません。直島の2倍近い面積をもつお隣の豊島(てしま)の人口が900人程度だといえば、純粋な離島としては、直島の人口が決して少なくないことをわかっていただけるのではないでしょうか。
では、なぜ面積約8平方キロメートルの離島である直島に3,000人もの人々が住んでいるかというと、それは観光業よりも精錬業によるところが大きいのです。
かつての直島には目立った産業もなく、財政的にも困窮していました。ところが1917年、直島精錬所が開設されたことで「企業城下町」として発展することに。ピーク時には5,000人以上の人々が直島に住み、往時は立派な総合病院や映画館もあったといいます。
離島にしては「都会」の直島
ピーク時に比べると島の人口は減り、現在は総合病院も映画館もありません。それでも、直島には今も精錬所関係者が数多く住んでおり、精錬所は島の経済になくてはならない存在になっています。
少し古いデータにはなりますが、2000年時点で直島の住民のおよそ半数が製錬所と関連11社の従業員と家族。製錬所関係からの税収は、町の税収全体の6割を占めていたといいます。(四国新聞:島びと20世紀第3部「豊島と直島3 運命共同体」より)
自治体別に見ると、直島町の個人所得は香川県内でも3位。離島というと、「細々とした農業と漁業以外に目立った産業がない」というイメージかもしれませんが、直島には精錬所という産業基盤があることで、離島でありながら香川県では比較的裕福な自治体の部類に入っているのです。
それもあってか、島内をめぐると「豪邸」と呼んでも差し支えのない立派な民家がいくつもあることに気づくでしょう。精錬所関係者が暮らす社宅が集まるエリアもあり、「離島」という言葉からイメージするのとはかなり違った風景を目にすることができます。
直島でも高齢化や過疎化の問題がないわけではありませんが、精錬所関係者には小さな子どものいるファミリー層も多いことから、ほかの離島に比べると子どもの姿が多いのも直島の特徴です。
直島の20倍近い面積をもつ小豆島は例外としても、本土と橋でつながっておらず、大都市圏からも離れている純粋な離島としては、直島は「都会」の部類に入るといっていいでしょう。
斬新な公共建築群
直島町役場(正面)
精錬という経済基盤があるためか、直島は公共施設も離島とは思えないほど立派。直島のアート活動は1980年代後半に始まりましたが、実はそれ以前から、建築を核としたまちづくりが始まっていたのです。
1970年に竣工した直島小学校は、建築家・石井和紘氏が手がけた「直島建築」の顔。「宇宙船」や「要塞」にも例えられる白く巨大な外観は、そうと知らなければ小学校とは思えないほどインパクト抜群の建物です。筆者自身、初めて目にしたときは「これが地中美術館?」と思ってしまいました。
直島町役場(横)
本村(ほんむら)エリアにある直島町役場も、同じく石井和紘氏の設計です。京都・西本願寺の飛雲閣や歌舞伎座などを参考に、日本の伝統的なデザインのモチーフを随所に取り入れたデザインは、やはり離島の役場とは思えない壮麗さ。屋根に製錬所から提供された銅板が使われているという点にも、企業城下町としての直島の顔が垣間見えます。
町役場内には、直島の産業や歴史に関する展示や、パンフレット・広報誌などが設置されたコーナーもあります。展示スペースは誰でも入ることができるので、直島観光の際にはぜひ立ち寄ってみてください。
直島観光といえば、「地中美術館」や「ベネッセミュージアム」、「家プロジェクト」といった人気アート施設をめぐるのが定番ですが、今回ご紹介した小学校や町役場を含む直島の公共建築を訪ねる「直島建築鑑賞ツアー」も毎年期間限定で開催されています。
ミュージアムめぐりもいいですが、直島町民の生活に根ざした公共建築をめぐることで、知らなかった直島の顔が見えてくるのではないでしょうか。
直島を訪ねる際には、ぜひ「精錬の島」としての顔も意識しながら直島の風景を眺めてみてください。きっとさまざまな発見があるはずです。
[All photos by Haruna]
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