2,700mまで直行バスで向かう
岐阜県高山市と長野県松本市にまたがり、北アルプスの南端に位置する「乗鞍岳」。標高3,026mの「剣ヶ峰」を主峰とし、23の峰と7つの湖沼、8の高原からなり、周辺には雄大な裾野が広がります。
乗鞍岳へのアクセスはバスのみ。環境保護のため、乗鞍高原と畳平を結ぶ「乗鞍エコーライン」はマイカー規制を行っています。車は乗鞍高原駐車場に止めてシャトルバスに乗り換えます。
ちなみに公共交通で乗鞍高原へ向かう方法は、JR松本駅から松本電鉄で「新島々駅」へ。そこからバスが出ており、所要時間は1時間15分ほど。
もうひとつ、岐阜県の平湯温泉から「乗鞍スカイライン」を通って行くこともできます。これまで大雨被害のため通行止めだった「乗鞍スカイライン」も全面開通し、高山市・丹生川町の「ほおのき平バスターミナル」、または平湯温泉の「平湯温泉バスターミナル」でシャトルバスに乗車し畳平に向かいます。
乗鞍高原のバス停から美しい山容や高原の景色を見ながら、つづら折りの舗装道路を登っていきます。畳平のバスターミナルは標高2,702m。これは富士山5合目より高く、バスが走る標高としては日本一だそうです。
シャトルバスは50分ほどで畳平に到着。畳平には乗鞍バスターミナルのほか、展望レストランなどのお食事処や「銀嶺荘」「白雲荘」といった宿泊施設、ギフトショップや売店があります。また乗鞍岳を御神体とする乗鞍神宮の中之社もここにあり、御朱印をいただくことができます。
この畳平周辺には、素晴らしい光景が広がっています。上の写真に見えるターミナルの左手には緑の湿原が広がり、右側には鶴ヶ池があります。水量がある時期には、首の長い鶴のような形に見えることから名付けられました。この周辺散策だけでも楽しいところです。
いよいよ3,026m乗鞍岳の山頂へ
その鶴ヶ池を左手に見ながら、剣ヶ峰に向かいます。畳平から山頂までは1時間半ほど。標高差は300mしかありません。とはいえ標高は3,000mですので、高山病にはお気を付けください。
あちこちで高山植物を見かけることができます。上の写真は「イワギキョウ」でしょうか。途中の「肩の小屋」までは車も通れる幅広い道なので歩きは安全です。
“高山植物の女王”と呼ばれる「コマクサ」も登山道の両脇でよく見かけます。とても可憐な花ですね。
標高2,818mの富士見岳に立ち寄りました。ここまで20分足らず。この富士見岳を迂回するルートもあるのでご安心ください。
富士見岳から剣が峰方向を見た写真です。右下に見えるのは「不肖ヶ池」というのだそうです。陽の光に輝いてエメラルドグリーン、まばゆく見えます。
富士見岳から左手の建物、「肩の小屋」までやってきました。ここまで45分ほどでしょうか。この肩の小屋では食事も宿泊もできます。また売店やトイレもあるので、ここでひと休みしましょう。
途中で地元の中学生たちの学校登山に出会いました。長野県では古くからの学校行事のようです。大勢の中学生たちで肩の小屋は大にぎわいでした。
高山の乾いた砂礫地を好む「トウヤクリンドウ」です。8月にはいつでも咲いているといいます。
実は乗鞍岳では戦前、旧陸軍が山頂近くの畳平に航空研究所を建設し、戦時中に平湯峠から自動車道路を作っていました。そして戦後には自動車道はバス道路となり、岐阜の高山から畳平まで登山バスが運行されるようになったのだそうです。
さらに昭和48年(1973年)には乗鞍スカイラインが完成し、マイカー登山ができるようになります。剣ヶ峰まで1時間半で登れることから、夏になると登山者や観光客で道路は大混雑となります。そこで環境保護のためにマイカー規制を導入し、シャトルバスの運行となったのだそうです。
鶴ヶ池、不肖ヶ池、そして次に見えてくるのは権現池です。雲がなければ、遠く御嶽山や白山、八ヶ岳などが見渡せます。
山頂小屋の前にやってきました。ここは宿泊施設ではなく、Tシャツや登山バッジなどの土産物や飲み物の売店となっています。ここまでくればあと一息。
この頂上小屋でTシャツを買いました。値段はちょっとお高めの3,000円ですが、左肩の裏にかわいいクマさんと標高「3026」の数字がプリントされていて、あまり見かけないデザインなのです。ここでしか買えないもので気に入っています。
ちなみに乗鞍岳という名前は、岐阜県飛騨地方から眺めた姿が馬の鞍の形に似ていたことから「鞍ヶ峰(くらがね)」と名づけられ、それが乗鞍岳となったそうです。北アルプスのなかでも特にすそ野の広い大きな山で、四方八方に高原が広がっていますね。
そしてついに3,026mの山頂、剣ヶ峰に到着です。実際には1時間半ほどしか歩いていないのですが、3,000mの山に登頂したと思うと、きっと感動しますよ。
爽やかな風が通る乗鞍高原温泉
今回宿泊する乗鞍高原温泉は標高1,500m前後の大自然たっぷり、爽やかな高原に広がっています。
お世話になったのは、シャトルバス乗り場からも近い「ペンション アルプホルンさん。外観はスイスやドイツの別荘をイメージしたオシャレな建物ですが、温泉自慢の宿でもあります。ペンションとはいえ、ラウンジや食堂、客室など内部もゆったりしていました。
こちらには貸し切りの露天風呂が4つあり、空いていれば無料で自由に入ることができます。しかも素晴らしいことに源泉かけ流し。そして、女将さんの手作り料理が評判の宿です。
上下4点の写真が、貸し切り露天風呂です。4カ所とも自然を前に開放感たっぷりで気分爽快なのです。しかも、それぞれ趣が異なっています。泉質は酸性硫化水素泉。ちょっと白濁した硫黄泉です。
この乗鞍高原温泉は乗鞍岳の山腹から自然湧出しているそうで、地域の宿が協力して2年の歳月をかけて引湯工事行い、いまでは100ほどの施設が引湯をしているのだそうです。
そして夕食。ダイニングでいただきます。和洋折衷の創作料理とでもいいましょうか。宿のすぐ隣の自家菜園で丹精込めて作られる高原野菜や、信州産の旬の素材を使った女将さん手作りの料理なのだそうです。
上の写真は、信州名物の馬刺し。とても新鮮、甘みもあって美味でした。
こちらはラタトゥイユとチーズ。野菜がおいしいのです。自家菜園ではトウモロコシやトマト、ナス 、きゅうり、じゃがいもなど作っているそうです。このほか、信州牛のしゃぶしゃぶまでいただきました。
朝食は和食と洋食から選択できますが、洋食がおすすめです。自家製のパンにたっぷりの新鮮野菜。1泊2食で1万5,000円もしないリーズナブルな料金設定で、食事に温泉、なにもかも大満足で、癒やされた旅でした。
[All Photos by Masato Abe]