第1回:新生活は突然に
「アートの島」として有名な直島は、瀬戸内海に浮かぶ周囲約16kmの離島。行政上は香川県に属しますが、地理的には岡山県に近く、岡山県の宇野港からはフェリーで20分、香川県の高松港からはフェリーで50~60分のところにあります。
フェリーが直島の宮浦港に到着し、ついに直島と初対面。写真で何度も目にした『赤かぼちゃ』が鎮座する宮浦港の風景を目にして、「私たち、本当にこの島で暮らすんだ!」ーー直島に到着してようやく「離島で暮らす」という現実と正面から向き合った気がしました。
そして始まった、はじめての離島暮らし。都会と離島の決定的な違いは「選択肢の数」でした……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第1回:新生活は突然に~
第2回:島の風景は毎日違う
直島で散歩をするようになって気づいたことがあります。それは、歩くコースはだいたい同じなのに「島の風景は毎日違う」ということ。毎日のように同じ道を歩いて、同じ景色を見ているはずなのに、「まったく同じ風景」というものがないのです。
30年以上生きてきたなかで、これまで住んだどの場所でも「風景が毎日違う」と思ったことはありませんでした。しかし、直島に暮らすようになって、日常の風景から季節や時間の移ろいを敏感に感じるようになったのです。
毎日のように目にする風景に感動できるというのは、この上なく幸せなこと。そう考えたときに気づいたものとは……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第2回:島の風景は毎日違う
第3回:直島に住んで驚いたこと
「離島」と聞くと、車はもちろん人の往来も少ない、のどかでひっそりとした光景を想像しませんか? ところが平日の直島には「ラッシュアワー」があるのです。
朝のフェリーで直島にやってくる人や車の多くが向かうのは、島の北部にある精錬所。1917年に設立された直島精錬所は、100年以上にわたって直島の経済基盤であり続けてきました。最近では、「直島=アートの島」というイメージが強くなりましたが、実は古くからの「精錬の島」なのです。
では、県庁などの大規模な役所はもちろん、地方都市の小さな支所でもあったのに、直島の町役場になくて驚いたものとは……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第3回:直島に住んで驚いたこと
第4回:「精錬の島」としての知られざる顔
島内をめぐると「豪邸」と呼んでも差し支えのない立派な民家がいくつもあることに気づくでしょう。精錬所関係者が暮らす社宅が集まるエリアもあり、「離島」という言葉からイメージするのとはかなり違った風景を目にすることができます。
精錬という経済基盤があるためか、直島は公共施設も離島とは思えないほど立派。直島のアート活動は1980年代後半に始まりましたが、実はそれ以前から、建築を核としたまちづくりが始まっていたのです。
直島観光といえば、「地中美術館」や「ベネッセミュージアム」、「家プロジェクト」といった人気アート施設をめぐるのが定番ですが、公共建築を訪ねる「直島建築鑑賞ツアー」も毎年期間限定で開催されています。直島町民の生活に根ざしたアートな公共建築とは……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第4回:「精錬の島」としての知られざる顔
第5回:限られた選択肢のなかで「幸せ」を見つけるということ
都会に比べて田舎の生活が不便なのは当たり前のこと。離島ともなればなおさらです。小さなスーパーやコンビニがあるという点で比較的恵まれているとはいえ、直島の暮らしで「ないもの」に目を向けてしまうとキリがありません。
離島に住んで感じることは、選択肢が極端に限られる環境だからこそ、「ないもの」に目を向けるのではなく、「限られた選択肢のなかで、いかに幸せを見つけるか」が大事だということです。
とはいえ、離島ではどうしても行くところやできることが限られるので、日常生活がマンネリ化しがちなのも事実。大切なのは、いつもの日常にちょっとした「小さな変化」を起こすことなのです……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第5回:限られた選択肢のなかで「幸せ」を見つけるということ
第6回:自分で自分の可能性を狭めてるかも
ひょんなことからフリーランスのライターになって感じることは、「私たちがいかに自分で自分の可能性を狭めてしまっているか」ということです。
筆者の場合、ドイツ移住という大きな変化によって「ライター」というキャリアにチャレンジすることができ、結果的にフリーランスになったわけですが、ドイツ移住がなければ、「自分のキャリアはこれでいいのかな?」と悶々としながら会社員を続けていたかもしれません。
「今までのキャリアの延長線上ではなく、いま純粋にやりたいことは何だろう?」 ― そう自問した答えが「ライター」でした……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第6回:自分で自分の可能性を狭めてるかも
第7回:離島の「物価」に衝撃
「スーパーがあるとはいっても、小規模だし値段も高いかも」というのは引っ越してくる前からある程度想定はしていました。しかし、実際に引っ越してきてはじめて直島のスーパーに行ったときは、その値段にあらためてびっくりしてしまいました。
直島ではスーパーの値段が高いので、ほかではあまり見られないような逆転現象も起きています。世間的には「コンビニはスーパーより割高」というのが常識ですが、セブン-イレブンは基本的に全国統一価格ゆえ、直島ではスーパーよりもコンビニで買ったほうが安いものもあるのです。
そして、10年間東京で暮らし、都会の便利な生活に慣れきっていた筆者が曲がりなりにも離島で生活できているのは、「これ」があるおかげといっても過言ではありません……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第7回:離島の「物価」に衝撃
第8回:フェリーに乗って買い出し
島のスーパーで買うよりも宇野まで買い出しに行くほうが圧倒的に安上がりなのですが、フェリーが1時間に1本程度なので、宇野まで行ってスーパーで買い物をして帰ってくるだけでも2時間ほどかかります。
島民には安いと評判の「エブリイ」派も多いようなのですが、筆者は初めて宇野で行ったスーパーが「マルナカ」だったこと、なおかつあまり混雑しておらず、通路などの店内空間にもゆとりがあって買い物がしやすいことから、ついつい「マルナカ」に行ってしまいます。
実は今回、カフェで長居しすぎてしまい、急いで買い物を済ませたのですが、スーパーを出た時点で船が出るまで12分というタイミング。港までさほど距離があるわけではないものの、パンパンのリュックを背負っているうえ、エコバッグも持っているので、走ろうとしても全然スピードが出なくて……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第8回:フェリーに乗って買い出し
第9回:島に住んで変わったこと
直島に引っ越してきてはや1年弱。これまで東京都心やドイツ南西部の田舎町など、いろんな場所に住んできましたが、離島生活ははじめての経験でした。直島に住んで「変わったな~」と思うことはたくさんありますが、特に顕著なのが「物欲がなくなった」ことです。
直島に住んでからの出費は服や靴、バッグ、アクセサリーなどの服飾費というよりは、食費や旅費がメイン。完全にモノ消費からコト消費に移行しているのです。
そして、物欲と同時に直島に住んで変わったこととは……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第9回:島に住んで変わったこと
第10回:離島生活でいちばん困ること
実際に住んでみて何が困るかというと、島外に出るときに常にフェリーの時間に拘束されてしまうことです。
瀬戸内の離島のなかには、フェリーが1日4往復だけという島もあるため、直島はかなり恵まれているほうです。とはいえ、島外に出かけるときに常に船の時間を意識して行動しなければならないというのは、経験してみると意外にストレスです。
一方で、「1~2時間の船の時間に合わせて行動する」ことが当たり前になったがゆえの副産物もありました。すっかり「待つ」ことに慣れたのです……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第10回:離島生活でいちばん困ること
第11回:直島のとある休日
この日のお目当ては、アートというよりもベネッセハウス ミュージアム内のカフェ。ミュージアムショップを併設しており、本格的なレストランというよりはちょっとした軽食やお茶を楽しむような感じですが、直島でも指折りのロケーションが魅力なんです。
窓の向こうは瀬戸内の海! もう少しあたたかくなってきたら、外のテラス席も最高でしょう。「離島」というと「海カフェ」をイメージされる方もいるかもしれませんが、直島には店内から海を眺められる飲食店はあまりありません。
日頃は離島生活の不便さに悶々としてしまう瞬間もありますが、やはり海を眺めると素直に感動します。瀬戸内の一番の魅力は、やさしい海の風景と穏やかな空気感。この土地を離れたら、きっとこの海が恋しくなるんだろうなと思います……
>>【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第11回:直島のとある休日
第12回:お隣の豊島に行ってみた
直島同様、瀬戸内国際芸術祭の会場となっており、「豊島美術館」をはじめとするアート施設も充実。直島から豊島(てしま)へは高速船でわずか20分なので、直島を訪れる機会があれば、ぜひ豊島にもセットで足を運んでみてはいかがでしょうか。
美術館のすぐ手前で、はっとさせられるほどフォトジェニックな坂道を発見。急な下り坂の向こうには瀬戸内海、その左側には棚田……。こんなに素敵な坂道、日本中を探してもなかなか見つからないのではないでしょうか。
港の奥のほうには「いかにも漁村」といった風情の心安らぐ風景が広がっていました。日曜日の昼間だというのに、車の音も人の声もほとんどせず、本当に静か。お隣の島でありながら、まったくの別世界です……