(C)大歩危峡まんなか
徳島県祖谷地方の山あい 剣山へ
「日本百名山」の著者・深田久弥は剣山(つるぎさん)について、西の石鎚山が山骨稜々として厳父的なのに対して、東の剣山は豊かなふくらみを持って慈母的である。しかも両方とも古くから住民に尊敬され、歴史と伝統が山に沁み込んでいて、石鎚山とともに名山だと記しています。
(C)Masato Abe
山深い剣山の登山口「見ノ越」まで車で行く場合、徳島自動車道の脇町ICから1時間30分程度。または季節運行の登山バスが3ルート運行されているとのことです。運行期間・時間はルートにより異なるので確認してみてください。
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登山前の腹ごしらえは、祖谷(いや)名物の「祖谷そば」。リフト前の食堂でいただきました。徳島県西部の祖谷地方で収穫されるソバで作られたもので、つなぎは使わず、通常のそばに比べて麺が太く切れやすいのが特徴といいます。
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さて、剣山へは見ノ越から歩いて登ることもできますが、オススメは4月下旬から11月末まで運行している「剣山観光登山リフト」。標高1,420mの見ノ越駅から山頂近く、標高1,750mの西島駅まで830mを15分ほどで移動できます。
西島駅からは4本の登山道があり、体力に合ったコースを選べます。最も短いルートは西島駅から1時間もかからずに山頂にたどりつきます。
リフトからの紅葉が美しい
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訪れたのは10月の下旬。あいにくの天気でしたが、紅葉のシーズンなので山の中腹ではみごと赤や黄色に染まっていました。リフトに乗って紅葉を楽しめます。
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リフトを下りたところにあった登山地図です。中央の尾根道コースを歩いて行きましょう。ちなみに1本右側の大劔道では、途中の大劔神社に屹立した大きな岩「大劔石」があり、剣山の名前の由来になったともいわれています。
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足元はキチンと整備された登山道で、危ない箇所はまったくありません。
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上の写真は「刀掛(かたなかけ)の松」。かつて屋島の合戦に敗れた平家の落人たちが、お家の再興を期し剣山に宝刀を埋めるため、山頂を目指したといいます。その途中ここで休憩したそうで、宝刀をこの松に掛けて休んだことから、この松を「刀掛の松」と呼ぶようになったと伝えられています。
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「刀掛の松」から山頂を目指す道は3つあるのだそうです。山頂を見て左が「行場コース」、右が「大劔道コース」、真ん中が「尾根道コース」です。最短距離は真ん中の「尾根道コース」なのです。
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ほどなくして山頂直下の「剣山本宮宝蔵石神社」に到着。
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剣山周辺には586社の社があるそうですが、その総本社は大劔神社といいます。山頂直下にあるここが本社かと思ったのですが、そうではないようですね。
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そして、こちらは神社の裏手にある「宝蔵石」。平家再興のための財宝を埋めたとも、安徳天皇の剣を埋めたとも伝えられています。剣山の名前の由来の一説にもなっているそうです。
真っ平らな剣山山頂
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山頂付近は真っ平らといってもいい、爽快な草原が広がっています。古くは「平家の馬場」と呼ばれ、平家の落武者が馬の訓練をしていたという言い伝えもあるそうです。
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左に見えるのは測候所。草原に木道が整備されていました。まっすぐに歩いてゆくと・・・
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ほんの少し高くなっている場所が最高所。標識が立ててありました。1,955mの地点ですが、2,000m近くという高度は感じません。
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展望台もあります。この日は霧(ガス)がかかったり晴れたりの一日で、遠くまで見渡すことはできません。とはいえ雨に降られることもなく、まずまずの山歩きでした。
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祖谷地方の谷は深いのですが、山々はなだらかに続いていて、周辺の山歩きもまた楽しいのだそうです。
そして、祖谷には平家の落人伝説がいまも伝えられています。源氏との戦いに敗れた平家が逃げ延びて、祖谷でひそかに再興を願いながら暮らしていたというものです。この剣山でも各所で平家の物語が残されていたのですね。
百聞は一見に如かず 奥祖谷の二重かずら橋
下山した後、向かったのは「奥祖谷の二重かずら橋」。山あいの曲がりくねった狭い道を西に走り、30分ほどで到着です。
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実は「かずら橋」は2つあります。有名なのは西祖谷にある「かずら橋」ですが、ここ東祖谷にある「奥祖谷二重かずら橋」は“秘境感”がさらに増すのです。
二重というのは男橋・女橋という2つのかずら橋があるから。そして「野猿(やえん)」と呼ばれる人力のロープウェーもあります。古くから生活に欠かせない交通手段だったそうです。
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入口から溪谷に降りていきます。シラクチカズラと呼ばれる植物を編み重ねて作られているといい、地域の人びと総出で数年ごとに架け替えが行われるそうです。
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男橋の長さは42m、水面から12m地点にあるので、歩くたびにけっこう揺れるのです。苦手な人も多いでしょうが、個人的には古代にタイムスリップしたようなワクワク気分になりました。
かつて祖谷は、危険な渓谷沿いを歩かなければたどり着けない“秘境”でした。平家の落人は追手にさとられないように、何百年もこの地に隠れ住んでいたのでしょうね。
住所:徳島県三好市東祖谷菅生620
電話:0883-76-0877(三好市観光案内所)
HP:https://miyoshi-tourism.jp/spot/okuiyanijukazurabashi/
大歩危峡谷の温泉 大歩危峡まんなか
かずら橋を見学した後さらに西に向かい、やってきたのは大歩危峡(おおぼけきょう)。ここは2億年の時間をかけて四国山地を横切る吉野川の激流が形作ったという、美しく険しい渓谷。8キロほど続く国指定の名勝なのです。
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この大歩危峡の中心に、その名の通り「大歩危峡まんなか」がありました。近くには、川下りを楽しめる大歩危峡観光遊覧船の乗り場もあります。
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吉野川沿いにJRと国道が走っているのですが、険しい断崖の続く道で溪谷ですから、広くて真っ平らな場所がありません。この宿も山が迫る狭い場所に建っていますが、宿に入るとそんなことを感じないのが不思議ですね。
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和室が基本ですが、ベッドを使う人のための和洋室やツインルームもあるようです。
ちなみに、客室にはスチーム美顔器やマルチ充電器、ブルーレイプレーヤーなど、さまざまなアメニティグッズが充実しています。また子ども用のイスやおむつ入れ、バウンサーなども貸し出していて、“おもてなし”に力を入れているのですね。
(C)大歩危峡まんなか
温泉名は「大歩危温泉」というそうです。源泉は15.9度の単純硫黄冷鉱泉。大浴場は単純硫黄泉、テラス風の露天風呂は人工鉱石温泉と2種類のお湯を楽しめます。ちなみに岩盤浴(700円)を楽しむこともできます。
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湯上り処には、祖谷の歴史を感じさせる囲炉裏もありました。
夕食は食事処で。祖谷の郷土料理が供されます。一目見ただけではわかりませんが、地元の食材を使い、祖谷伝統の味にこだわっているのだそうです。
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上の写真は、ホテルオリジナルの青大豆一升豆腐という豆腐を使った「青豆腐カルパッチョ」。青大豆一升豆腐とは、この地域の郷土料理・石豆腐(固い豆腐)に青大豆を加えたものだそうです。
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なんだか不思議な食べ物ですが、祖谷の郷土料理で「そばすべし」といいます。そば粉をたっぷり使った“あん”が特徴。地元の野菜山菜の上にベースとなる出汁にそば粉を加えていくときに、手のひらでそば粉を振るってすべらせるように入れるので「そばすべし」という名がついたそうです。
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こちらは田舎鍋です。白みそ仕立てで極味豚や地元野菜を使っているとのこと。山里ならではの料理ですね。このほかにもソーメン瓜を使った料理や刺身こんにゃく、湯葉、阿波尾鶏、四角豆、鳴門金時など地元の食材にこだわっていて、おいしくいただきました。
近いようで遠い徳島県の祖谷地方でしたが、近年はアクセスも良くなっています。ぜひ一度は訪ねて絶景と郷土料理、そして秘湯を味わってみてはいかがでしょう。