(C)ぬくもりの宿 ふる川
札幌から1時間で秘湯のおもむき 定山渓温泉
約150年前に僧侶の美泉定山(みいずみ・じょうざん)によって湯治場として拓かれ、彼の名が付けられた定山渓温泉。札幌の市街地からほど近く、良質な温泉が湧いていることで「札幌の奥座敷」と呼ばれてきました。
(C)Masato Abe
定山渓温泉の多くの宿はそれぞれ札幌市内からのバス送迎を用意していますが、今回は定山渓を歩いてみようと少し早い路線バスで訪ねることにしました。路線バスでも札幌駅から1時間で到着します。
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ようやく雪が積もり始めた時期で、定山渓も写真のように雪景色。周りを囲む山々は1,000mほどもあり、豊平川が渓谷を形作る定山渓は深い山あいにやって来たような趣。秘湯の雰囲気がありますね。
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温泉街の中心部を流れる豊平川の脇には「定山源泉公園」がありました。美泉定山生誕200年の2005年(平成17年)に整備された公園で、ここで定山は温泉を見つけたといいます。定山の銅像があり、広い足湯もありました。
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定山源泉公園から2〜3分のところに、今回宿泊する「ぬくもりの宿 ふる川」があります。1969年創業で、故郷の山河を思い出すような、身も心も癒やされる田舎の宿屋を目指したそうで、玄関を入ると温かな雰囲気が伝わってきます。
まさにぬくもりの宿 温かなもてなし
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まずは玄関ロビー。古民家風の内装で、たしかに落ち着きます。ロビー脇にある「いっぷく庵」では甘酒サービスをいただきました。寒い寒い北海道の冬なので温かい甘酒はほっとしますね。
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今回泊った客室はスタンダードの和室でしたが、なんと和室にデスクが備えられていました。女性客はここでお化粧ができますし、パソコンを持って旅行する人も多い昨今、ここに置いて仕事もできますね。筆者もパソコンを開いてメールのやり取りをしました。
さまざまな温泉がのんびりと楽しめる
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さてお風呂です。「ぬくもりの宿 ふる川」のお風呂は本館とは別の棟にあり、渡り廊下で結ばれています。そのアプローチが良いですね。道路の上、たしか4階部分に渡り廊下があって、外の冬景色を見ながら別棟に向かいます。
(C)ぬくもりの宿 ふる川
その別棟の1階と2階にお風呂がありました。基本は1階「月地の湯」が男性で、2階「花天の湯」が女性。朝になると交替します。1階のお風呂は窓の外に岩や木立を配した造りで雄々しい印象。雪を見ながらの入浴がとても落ち着いて癒やされます。
(C)ぬくもりの宿 ふる川
泉質は、身体がよく温まるナトリウム塩化物泉。自然湧出する2本の自家源泉を使っているそうで、源泉かけ流しと循環ろ過併用とのことです。
上の写真は雪見できる半露天風呂。ちなみに成分分析表を拝見したところ、メタケイ酸が1㎏中に114.4mgもあり、化粧水のような素晴らしい美肌の湯なのですねえ。
(C)ぬくもりの宿 ふる川
翌朝は1階と2階のお風呂が交替したので2階の「花天の湯」に入りました。炭酸泉の浴槽は上の写真のとおりお花のよう。1階「月地の湯」にある炭酸泉の湯舟とは違って、明るくホンワカした気分になれそうです。
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また「花天の湯」には、広いパウダールームもあります。女性向けのおしゃれな空間ですね。
(C)ぬくもりの宿 ふる川
そして「ふる川」さんの極めつけが上の写真。本館地下1階にある露天風呂「ゆ瞑み」。入浴は有料の500円ですが、それだけの価値はあります。約150年前に定山渓を開いた開祖「美泉定山」のお湯を再現したとのことで、静かに湯浴みをします。
男性のお風呂は岩を配した造りで、百年前の古木や石、裸電球に古い梁組みを使って作られていて、源泉かけ流し。庭を眺めながら「ゆ瞑み」という名前の通り、瞑想できます。
のんびりくつろげる湯上り処
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温泉宿を訪ねてみて強く感じるのは、風呂上がりにのんびりできる広いスペースがあるとうれしいということ。こちらの宿にはそれぞれテーマのある、広いスペースがいくつもありました。しかも飲み物付きです。
上の写真はお風呂のある別棟3階の湯上り処。ゆったりとした洋室の造りで、大きな窓から雪景色が見えます。
もうひとつは本館2階にある「なごみ庵」。こちらは日帰り入浴の人も休憩できる畳の和室です。書家で詩人・相田みつをさんのギャラリーでもあります。絵手紙を書くコーナーもあるので、お好きな方はぜひ。
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こちらは、玄関ロビー脇にあるラウンジ「であひ処」。ここは山小屋風のカフェ。飲み物はすべて無料で、お茶やソフトドリンクだけでなく、アルコール度数35度というリンゴ酒もありました。ここで憩いながらお風呂に入ったり、本を読んで一日過ごすのもいいかもしれません。
実は夕食の後、もうひとつのくつろぎスペースに驚かされました。それは後ほど。
北海道の海の幸山の幸
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食事は「仙食庵(せんじきあん)」という食事処でいただきました。テーブル席と掘りごたつ席があります。そのほかにも7階特別フロア宿泊者用に、「壺中天(こちゅうてん)」という蔵造りの空間や「喜庵(よろこびあん)」という食事処もあるそうです。
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上の写真は今宵の献立表。冬の季節に合わせて、地元北海道の食材を使った、ひと工夫されている料理が並びました。
先付の「寄せ大和芋 カーボロネロ巻き」の「カーボロネロ」とは、イタリア野菜の黒キャベツで、ロールキャベツのようにして使われるそうです。
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北海道ならではのボタンエビやあん肝、珍しいサメカレイなど、お造りもおいしかったのですが、個人的に感心したのは、その上の写真の「雲子豆腐親子椀」。北海道特産のタラの白子を使った豆腐で、これにマダラの低温蒸しを合わせてお椀物にしています。なかなか味わい深い一品でした。
その後、牛タンやわらか蒸し煮に、寒ブリの利久焼き、冷菜として炙りホタテ、SPF豚のうす葛鍋に生姜の炊き込みご飯と続きました。
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デザートには、台湾や香港などアジア名物の「豆腐花(トウファ)」。ツルンとしてヘルシー感覚でいただけるスイーツで、とても気に入りました。
冬の夜を別邸で過ごす「心の里 定山」
夜はこれで終わりではなかったのです。離れのような建物「心の里 定山」のナイトラウンジで、宿泊者は19時30分から23時まで無料でくつろぐことができるのです。
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普段は昼間にカフェや足湯として使われている、この「心の里 定山」。その際は500円の使用料が必要ですが、夜は無料で宿泊客に開放されているというわけです。
この夜は、大浴場のある別棟から渡り廊下を通り、さらに戸外を抜け、雪のちらつく中を歩いて向かいました。周囲は照明が適度に配置されて雪の美しいこと。凍てつく夜の雪ならではの光景です。
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ただのラウンジではなかったことにも驚かされました。もちろん広々として温かなラウンジもありますが、美術館を併設されていたのです。この美術館「中島文庫」は東洋、特に古代の中国や朝鮮の陶磁器を中心に展示している本格的なもので、ついつい時間がたつのを忘れてしまいそうなほど。
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さてラウンジです。おしゃれなデザインで音楽も流れ、たくさんの書物や写真にも囲まれています。アルコールやソフトドリンクも無料、さらに自家製の焼きリンゴと焼き芋もいただくことができます。ゆったりとしたソファにもたれ、心地よい音楽を聴きながら見つめるのは、雪の降る庭で燃えるかがり火、なのです。それは美しい光景でした。
夏も楽しいのでしょうが、真冬の定山渓温泉で凍てつく寒さのなか、温かなぬくもりで心と体を癒やしてくれる旅はいかがでしょうか。