ドバイのショッピングモールにある水槽 (C) S-F / Shutterstock.com
巨大アクリル水槽で「香川県の企業」は世界一
沖縄美ら海水族館の水槽
水族館に関する世界一が日本にあると言われたら何を想像しますか? いろいろな世界一が日本の水族館には実際にあるはずですが、今回取り上げる世界一はアクリル水槽パネル(窓)の大きさについての世界一です。
いま、世界最大のアクリル水槽パネルを持つ水族館はどこでしょう? 「沖縄美ら海水族館」の水槽は、かなり巨大な窓から魚を眺められるので有名ですよね。ギネス世界記録に認定されたというニュースをどこかで聞いた覚えもあります。
「え、でも、沖縄美ら海水族館の水槽パネルは、ドバイかどこかのショッピングモール内にある水槽に追い越されたって聞いたけど?」と思った人、かなりの水族館マニアですね。
「そのドバイの水槽も、中国の水族館に今は追い越されているよ」とさらに突っ込みを入れられる人は、ギネス世界記録マニアかもしれません。
確かに、中国・広東省にある「珠海長隆海洋王国」内の水族館には、いくつものギネス世界記録があって、ジンベイザメが展示されているアクリル水槽(の窓)も、幅39.6m・高さ8.3m・厚さ65cmと世界一のサイズを誇ります。
「珠海長隆海洋王国」(チャイムロング・オーシャン・キングダム)内の水槽 (C) Qiongna Liao / Shutterstock.com
繰り返しますが、今回のテーマはまさにこのアクリル水槽パネル(窓)の大きさです。2014年(平成26年)にギネス世界記録にも認定された珠海長隆海洋王国の水槽をつくったメーカーは、何を隠そう、日本の「日プラ株式会社」(香川県)だったのです。
地方のメーカーながら、アクリル水槽の世界シェアはトップ。上述した中国の水槽のみならず、2003年(平成15年)に当時のギネス世界記録に認定された沖縄美ら海水族館のアクリル水槽パネル(幅22.5m・高さ8.2m・厚さ60cm)、2008年(平成20年)にその記録を塗り替えたドバイのショッピングモール「ザ・ドバイモール」のアクリル水槽パネル(幅32.88m・高さ8.3m・厚さ75cm)も日プラが手掛けました。
要するに、世界の水族館にある巨大アクリル水槽パネルの歴史を日本の企業が更新し続けているのですね。
アクリル水槽やアクリル展示をリードする日本
葛西臨海水族園 (C) picture cells / Shutterstock.com
もともと、同業他社の日本企業「菱晃(りょうこう)」がこの分野で知られた存在でした。
『増補版 日本の技術は世界一 ―先進企業100社―』(新潮文庫)によると、菱晃の親会社である三菱レイヨンが、世界に先駆けて1966年(昭和41年)にアクリル水槽の生産を始めたそうです。一方の日プラ(当時は日プラ化工株式会社)の設立は1969年(昭和44年)。
先行した菱晃は1975年(昭和50年)、幅26m・深さ3.5m・厚さ20cmと前例のない巨大なアクリル水槽を「沖縄海洋博」に納入して成功させます。
その後は、アメリカのフロリダにある「シーワールド」のトンネル水槽、「葛西臨海水族館」のマグロ回遊水槽、大阪の「海遊館」、三重の「鳥羽水族館」など、大型プロジェクトで実績を残し続けたそう。国内シェアで言えば8割程度を占めたと言います。
その菱晃の影響が強い国内マーケットに限界を感じた日プラは、
<企業規模に関係なく品質で判断するアメリカに活路を見出し>(『週刊ポスト』より引用)
成功を収めます。
1994年(平成6年)にカリフォルニア州のモントレーベイ水族館の増築工事で実績を残すと、イリノイ州の動物園、テキサス州の淡水魚場、ネバダ州の展示水槽、マサチューセッツ州の水族館など、アメリカを中心に毎年のように海外で実績を重ね、ヨーロッパやその他の地域でもプロジェクトを目立って受注するようになり、年を追うごとにその評価は世界的なレベルになっていきます。
モントレーベイ水族館 (C) photocritical / Shutterstock.com
現在、アクリル水槽パネルのメーカーは日プラ・菱晃に加えてアメリカの企業がそのシェアを分け合っているようです。
しかし、日プラを筆頭に菱晃を足せば、世界の水族館や動物園、商業施設の巨大アクリルパネル業界をリードする「超大国」は日本だとわかります。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が終息し、自由にまた旅ができるようになったら、中国やドバイへ出かけて、香川県の企業が手掛けた世界最大級のアクリル水槽パネルを眺めてみたいですね。
[参考]
※ 日プラ
※ 最近の工事実績表
※ vol.8 菱晃
※ 世界で勃発中の水槽の巨大化競争で一人勝ち企業は香川の企業 – 週刊ポスト
※ 毎日新聞経済部『増補版 日本の技術は世界一 ―先進企業100社―』(新潮文庫)
[Photos by Shutterstock.com]