世界でもっとも長い並木道
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並木道を歩くと気分が高まりませんか? 日本では宮城県仙台市の定禅寺通の並木道が有名ですが、世界的にいえばパリのシャンゼリゼ通り、ボストンのコモンウェルス・アヴェニューなどがさらに有名です。
ヨーロッパにおける並木道の整備は、1853年(ペリー率いる黒船が浦賀に来航した年)から始まったパリ改造を契機にヨーロッパ全体へ広がります。その波は発展途上のアメリカにも影響を及ぼし、ヨーロッパの街同様に定着していきました。
その波は明治・大正時代以降の日本にも影響を与えるのですが、一方で、日本には欧米と異なる並木道の歴史があったようです。平安京にはすでに並木道があったそうですし、歴史ある寺社の参道沿いにも並木道が各地で整備されています。
さらに、江戸時代には世界でもっとも長い並木道もつくられています。現在の栃木県を走る日光街道・例幣使(れいへいし)街道・会津西街道沿いに植えられた杉並木 ですね。
ギネス世界記録によれば、
<The world’s longest avenue >(Guinness World Recordsより引用)
とあります。「世界でもっとも長い並木道」といった意味。そう考えると、日本は並木道の「先進国」と言ってもいいのかもしれません。
日本の杉並木は7倍の長さで記録を上回った
(C) Picturesque Japan / Shutterstock.com
もう少し詳しくギネス世界記録の内容に注目してみましょう。「世界でもっとも長い並木道」は3つの部分からなっていて、35.41kmの長さを誇り、1628~48年に植樹された と認められています。
もともとは1万6,000~2万本の杉の木が存在したともいわれていますが、現在は1万2,500~1万3,500本程度 (令和2年度時点、栃木県文化財課調べでは1万2,126本)、並木の平均的な高さは27m とされています。
ギネス世界記録にある「avenue」とは「大通り」という意味かと思っていました。しかし、辞書を調べると、
<a wide straight road, especially one with trees on each side >(MACMILLAN English DICTIONARYより引用)
と一番に書かれています。「広くまっすぐな道で、特に木が両側にある道」といった感じの意味です。「avenue」の単語には、第一に「並木道」という意味があるのですね。
日光の杉並木がギネス世界記録に登録されるまでは、イギリスにある5.7kmのブナ並木が世界一長い「アベニュー」だと登録されていたようです。日本の杉並木は、その7倍の長さで記録を打ち破りました。
杉並木が植樹された時期は1628~48年ですから、江戸時代です。江戸幕府をつくった徳川家康が亡くなった年はシェイクスピアと同じ1616年。その死後に、松平正綱が杉の苗木を植え始め、家康の33回忌の年に、家康を祭った東照宮に寄進したそうです。
杉並木はその後、台風や災害、寿命と戦いながらも、幕府の手厚い保護の下で歴史を見守り続けます。
江戸から明治に時代が移る際の戊辰戦争では、板垣退助率いる新政府軍と幕府軍の前哨戦の舞台にもなったとか。今でも砲弾跡が並木に残っています。昭和の戦後になってからは、国の特別史跡・国の特別天然記念物に指定 されました。
さらに、並木のある栃木県今市市(現在は日光市)の職員がギネス申請し、平成に入ってから申請が認められたのですね。
砲弾打ち込み杉
筆者にも並木沿いを車で走った経験があります。車で走れる部分もあれば、車が入れない部分もあり、歩行者しか通れない場所には、古木のパワーを感じられるスピリチュアルな空間も広がっています。
長大な街道の途中には、特別ないわれを持つ木やエリアもいくつかあります。先ほども紹介した戊辰戦争時の砲弾の跡が残る「砲弾打ち込み杉」(日光街道)や、それぞれの由来が面白い「十石坂」「地獄坂」(例幣使街道)など。
新型コロナウイルス感染症の影響でなかなか自由に旅を楽しめないですが、ドライブ旅行なら人との接触が最小限に抑えられます。首都圏などに暮らす人は日光ドライブを週末に楽しんでもいいかもしれません。その際には、世界一長い並木道も体験して、歴史と並木のスケールをぜひ体験してみてくださいね。
日光東照宮
[参考]
※ 世界一の杉並木 – 栃木県庁
※ Longest avenue of trees – Guinness World Records
※ 日光杉並木街道 附 並木寄進碑 – 文化庁
※ 世界に誇る杉並木 – 栃木県
※ 日光杉並木街道概説 – 日光市立今市小学校
※ 街路景観と並木道
[Photos by Shutterstock.com]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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