昨日、関東甲信が異例の早すぎる梅雨明けを迎えました。6月中の梅雨明けは、統計史上最も早いそうです。いよいよ本格的に夏到来、ということで気持ちも浮き立ちますが、日本列島全体ではまだ梅雨が明けていない地域も多くあります。
さらに、世界に目を向けると、日本以外にも梅雨のある国があり、その時期も日本とは異なるよう。そこで今回は、梅雨のちょっとした豆知識として、海外における梅雨について調べてみました。
そもそも梅雨って何?
梅雨が日本以外にあるのかと考える前に、改めて梅雨とは何かを振り返ってみましょう。『広辞苑』(岩波書店)には、「つゆ」の項目に梅雨と黴雨という漢字が紹介され、意味は6月(太陰暦では5月)に降る長雨とあります。黴雨とは見慣れない言葉ですが、梅雨は中国語で「メイユ(méi yù)」と発音し、「メイ」は同じ中国語で「黴」の読みでもあります。
元々はカビの生えやすい時期の雨という意味の黴雨が一般的で、その漢字が同じ読みの梅雨に変わったという語源の解説も茂木耕作著『梅雨前線の正体』(東京堂出版)にあります。梅雨という言葉は中国語から来ているとなると、まずは中国にも梅雨はありそうですよね。
気象庁は梅雨という言葉をどのように使っているのでしょうか。気象庁が作成する季節現象の用語集を調べてみると、梅雨の意味は、
<晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる現象、またはその期間>(気象庁のホームページより引用)
とあります。読み方に関しては、
<梅雨前線のように「ばいう」と読む場合もあるが、単独では「つゆ」と読む>(同上)
とあります。発音に関しては、使い分けがされているのですね。梅雨前線という言葉が出てきましたが、天気図で見ると、梅雨前線は半円と三角形の印が一本の線を境に共存しています。この線は停滞前線と呼ぶと、確か中学生の教科書で習いましたね。
上述の『梅雨前線の正体』を読むと、北海道の東北にある千島列島、カムチャッカ半島、樺太に囲まれたオホーツク海上の冷たいオホーツク海高気圧と、国立公園にして世界遺産でもある小笠原諸島の海上に発生する温かい小笠原高気圧がぶつかり合い、その境界線上に前線が伸びて、東西に長い梅雨前線ができあがると分かります。この停滞前線こそが、梅雨の正体なのですね。
中国にも台湾にも、フィリピンのルソン島北部にも梅雨はある
(写真はイメージです)
この梅雨前線は、もちろん中国大陸にも発生します。『梅雨前線の正体』によれば、中国の北京あたりには5月ごろに冷たい揚子江高気圧が生まれ、その冷たい気団が南の温かい高気圧とぶつかり、香港やマカオ、広州などの南シナ海沿岸のエリア、さらには台湾の上空辺りに梅雨前線を作ります。
もちろん台湾のすぐ南には、バシー海峡、ルソン海峡を挟んでフィリピンのルソン島がありますから、バタン諸島、バブヤン諸島をはじめ、フィリピンのルソン島の北部にも梅雨はあります。
さらに南の小笠原高気圧が勢力を強めるに従い、梅雨前線の発生する位置が北に向かって変わっていきます。梅雨前線が日本の沖縄、南九州、関東、東北などの上空でも発生するようになると、前線は東西に長いため、西の端はそれぞれ、福州、広州、上海、北京など中国東部の大都市にも雨を降らせるようになります。
北朝鮮、韓国にも梅雨はある
(写真はイメージです)
季節が進むとともに南側の温かい高気圧が勢力を強めると、梅雨前線の発生する地点が北上していくと述べました。5月ごろは台湾、沖縄、6月ごろは九州や四国、紀伊半島、同じく6~7月ごろは北関東や東北を含む本州全土といった場所で梅雨前線が発達します。
世界地図を広げると、例えば東京と韓国南部のテグは同じくらいの緯度にあります。ソウルと新潟は同じくらいの緯度にあり、秋田と平壌は同じくらいの緯度にあります。東京や新潟、秋田の上空に梅雨前線が発生しやすい時期は、その前線の西側は朝鮮半島をもまたぐように伸びます。つまり、韓国と北朝鮮にも梅雨の時期が訪れるのですね。
韓国の言葉で梅雨は「チャンマ」と言うそう。当てる漢字は異なり、「長霖」となるみたいです。文字通り、長い雨といった意味になるみたいですね。
ロシアも極東の沿海州南部で梅雨の時期がある
季節とともに南の温かい高気圧の勢力が大きくなると、梅雨前線が発生するエリアはどんどん北上していきます。8月の上旬にもなれば、日本のほとんどのエリアは梅雨明けを迎えますが、北朝鮮の北部、さらにはロシアの極東にあたる沿海州の南部ウラジオストックなどの上空で梅雨前線が発生しやすくなるとされています。
もちろん、日本の本州の高い位置で梅雨前線が発生していれば、8月に限らず、7月でもその影響はロシアの沿海州に出ます。ウラジオストックよりも北にあるハバロフスクにまで行くと、梅雨前線の影響はないとロシア人の友人がかつて言っていましたが、ロシアの沿海州南部になると、梅雨のような日々が続くのですね。
ちなみに梅雨は、上述の友人に聞くと、ロシア語では特定の言葉が思い浮かばないとの話でした。あえて言うなら、「Дождливый сезон」になるとか。後半の「сезон」は季節。前半が分からなかったので手元の古い『岩波ロシヤ語辞典』(岩波書店)を調べてみると、形容詞で「雨の多い」「雨がちの」とありました。「Дождливый сезон」で意味は雨期。英語で言うRainy seasonですね。
以上、日本以外に梅雨のある時期を紹介しましたが、いかがでしたか? 梅雨とは夏前に発生した梅雨前線のもたらす天候とその期間を言います。同じようなエリアと同じような仕組みで発生する停滞前線でも、秋に発生する場合は秋雨前線と呼びますから、厳密に言って日本人が考える「梅雨」と「梅雨前線」の影響は、日本の他に、中国、台湾、フィリピン、韓国、北朝鮮、ロシアの極東の一部といった国々に限られると言えそうですね。
ただ、国境など関係なく梅雨前線が近隣諸国に等しく影響を及ぼしていると考えると、地球規模の広がりを感じられて、なぜか胸が高鳴りますね。
[ウェザーニュース]
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