山梨県勝沼の風景 (C) Shutterstock.com
国産ワインの礎が山梨県・勝沼に
【旧宮崎葡萄酒醸造場施設の歩み(抜粋)】
718年(養老2年):行基が山梨県勝沼でぶどう栽培を行う
1186年(文治2年):雨宮勘解由が山道で甲州種を発見
1877年(明治10年):大日本山梨葡萄酒会社が設立
1879年(明治12年):国産本格ワインが完成
1886年(明治19年):大日本山梨葡萄酒会社が解散
1904年(明治37年):宮崎光太郎が勝沼に宮崎第二醸造所を設置
1934年(昭和9年):昭和酒造が設立
1974年(昭和49年):宮崎第二醸造所(旧宮崎葡萄酒醸造場施設)を改装してメルシャン ワイン資料館が開設
2020年(令和2年):旧宮崎葡萄酒醸造場施設が日本遺産の構成文化財として認定される
山梨県といえば、ぶどうの一大産地。特に甲州市の「勝沼ワイン」は知らない人はいないというほど、あまりにも有名です。同地では江戸時代に本格的なぶどう栽培が始まり、明治時代になると、全国に先駆けてワインづくりが行われました。
そんな勝沼にある「旧宮崎葡萄酒醸造場施設」は、1904年(明治37年)に建てられた現存する日本最古の木造ワイン醸造所。現在は「シャトー・メルシャン ワイン資料館」となり、日本におけるワインづくりの歴史を伝える貴重な建物として、一般に公開されています。
国産ワイン醸造の夢を追い、あくなき挑戦で誕生した勝沼ワイン
国産ワインの代表的なぶどうの品種「甲州種」は、ヨーロッパ原産の日本固有品種で、およそ奈良時代にシルクロードを通って、仏教とともに日本に入ってきたといわれています。
甲州にぶどうが伝わった歴史には、実は2つの説があります。1つは718年(養老2年)に行基が山梨県勝沼に大善寺を開山したことにはじまるという説。そして、もう1つは1186年(文治2年)に勝沼に住む雨宮勘解由という人物が自宅近くの山道で偶然、ぶどうの甲州種を発見したという説です。
勝沼でのぶどう栽培の起源は定かではありませんが、やがて海外交易やキリスト教の布教とともにワインが日本で知られるようになり、明治になると日本の近代化を進めるための1つの施策として、明治政府がワインづくりを推し進めるようになりました。
当時、すでにぶどう栽培が盛んだった甲州では、民間の事業者が続々とワインづくりに参入し、ワイン醸造所が設立されました。しかし、手探りで行われたワインづくりは技術力不足でうまくいかず、挫折する事業者が続出。
そんな中、1877年(明治10年)にメルシャンの前身である「大日本山梨葡萄酒会社」が誕生します。政府の後押しと、海外に渡って知識と技術を学んだ末、ようやく1879年(明治12年)に国産本格ワインが完成しました。このワインづくりに関わった1人が宮崎光太郎という人物でした。
しかし、ワインづくりと販売が定着せず、1886年(明治19年)に大日本山梨葡萄酒会社はあえなく解散。それから宮崎は自宅にワインの醸造所をつくり、試行錯誤を重ねました。
そして宮崎第一醸造所に続き、1904年(明治37年)に宮崎第二醸造所(現・シャトー・メルシャン ワイン資料館)を建設。「宮光園」として開設し、醸造場の見学や、ブドウやワインの飲食や購入ができるスタイルを確立しました。
また、地元のぶどう農家とも提携したことで、農家や寺院によるワイナリーも多数生まれ、勝沼がワインの産地へと発展したことにも大きく貢献しました。
一方、メルシャンは大日本山梨葡萄酒会社を経て、1934年(昭和9年)に「昭和酒造」を創立。1974年(昭和49年)には宮崎第二醸造所を改装し、「メルシャン ワイン資料館」として開設。明治時代に使用していた器具や日本最古のワインの展示などを行い、日本におけるワインづくりの歴史を後世に伝える施設として保管され、現在に至ります。
140年の歴史が評価され日本遺産に
日本で国産本格ワインづくりが始まっておよそ140年。その歴史をまとめた『日本ワイン140年史~国産ブドウで醸造する和文化の結晶~』が文化庁の日本遺産に申請され、2020年にシャトー・メルシャンワイン資料館およびその展示物が、構成文化財として認定を受けました。
2022年現在、シャトー・メルシャンワイン資料館は、「シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー」の施設の一部として一般に公開されています。
周辺には20種類以上のワイン醸造用ブドウを栽培するぶどう畑が広がり、まるでフランスの片田舎へ旅してきたような壮観な景色が楽しめます。ワイナリーではワインをつくる大型のステンレスタンクがずらりと並ぶセラーや、地下に広がる樽育成庫・瓶貯蔵庫など、生産工程の見学も可能ですよ。
シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーでは、ワインの購入はもちろん、ワイナリー限定ワインを味わえる有料テイスティングカウンターや、シャトー・メルシャンオリジナルの「ワイン・フォンデュ」のほか、クラッカー、オリーブなどのワインと相性の良いスナック類の販売も行っており、存分にワインを堪能できる空間となっています。
ワイナリーツアーは海外旅行でも人気のプランですが、シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーなら東京から日帰りで行きやすいのも特徴です。国内で手軽にワイナリーツアーが楽しめ、そのうえ、日本におけるワイン醸造の歴史にも触れられる大変貴重な施設。ワイン好きに限らず、ぜひ多くの人に一度足を運んでみてほしいスポットです。
内野 チエ ライター
Webコンテンツ制作会社を経て、フリーに。20歳で第1子を出産後、母・妻・会社員・学生の4役をこなしながら大学を卒業、子どもが好きすぎて保育士と幼稚園教諭の資格を取得、など、いろいろ同時進行するのが得意。教育、子育て、ライフスタイル、ビジネス、旅行など、ジャンルを問わず執筆中。特技はワラビ料理と燻製作り。
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