美濃戸口から入山し赤岳鉱泉に宿泊
日本百名山の八ヶ岳連峰。とはいえ、実は個性的な山々の連なりです。主峰は標高2,899mの赤岳で、その周囲の南八ヶ岳には権現岳や阿弥陀岳などの岩峰が連なり、硫黄岳から北には根石岳や天狗岳、さらに北には蓼科山や神秘的な原生林や池沼があり、数多くの貴重な動植物も生息しています。
原生林と湖沼が広がる北八ヶ岳と、鋭い岩峰が続く南八ヶ岳ではその姿も違うのです。
今回は八ヶ岳の玄関口・美濃戸口から3時間ほど歩いて赤岳鉱泉に到着。まずは八ヶ岳縦走の起点となる宿に宿泊しました。この日も赤岳鉱泉恒例のステーキを夕食でいただき、朝7時に出発。
赤岳鉱泉には以前にも宿泊して赤岳に登っていますのでご覧ください。
赤岳鉱泉から硫黄岳へのルートは、それほど険しくはありません。硫黄岳の山頂まで2時間もあれば到着するはずです。
最初は樹林帯を進みますが、やがて右手の木々の間から赤岳や横岳の峰々を望むことができます。
1時間半ほどで「赤岩の頭」に到着。このあたりから樹木は低く少なくなります。「赤岩の頭(かしら)」とは妙な名前ですが、遠くから見ると赤っぽい地面が露出したポコッとした山なので、そう呼ばれているのではないかと想像しています。ここまで来れば硫黄岳ももうすぐそこ。
後ろを振り返ると下界はこんな感じで、高度感たっぷり。この日は天気がいいので、遠く北アルプスが望めました。
八ヶ岳連峰・硫黄岳に到着
赤岩の頭から15分ほどで硫黄岳山頂に到着。それほど歩いた感じはしないのですが、標高はすでに2,760mあります。そして、この硫黄岳の山頂周辺は小石が多く、広々とした台地状になっています。
硫黄岳の見どころは北面に残る、かつての火山活動のなごり。「爆裂火口」の巨大な痕跡があり、断崖絶壁が鋭く大きく切れ落ち、地層がむき出しになっているのです。
そして、もうひとつの見どころは、八ヶ岳の峰々が美しく連綿と連なっている光景。赤岳や阿弥陀岳などに続くパノラマがとても美しいのです。この景色はずっと眺めていても飽きません。
天狗岳への縦走
しばし休息をした後、北に向かいます。まずは坂を下って、途中の峠にある「オーレン小屋」に向かいます。
硫黄岳から急坂を下って1時間ほどでオーレン小屋に到着。ここはふもとの桜平登山口から八ヶ岳に入る最初の山小屋でもあり、けっこう登山者でにぎわっていました。八ヶ岳連峰の北にも南にも、そして東側にも抜ける十字路のような場所です。
ここで昼食。オーレン小屋ではラーメンもいただいて栄養補給です。
さて天狗岳に向けては、小屋からふたたび急坂を登ることになります。ですが、ここには樹林帯があり、日差しをさえぎってくれるので歩きやすい道。木立を通して柔らかい日差しが心地いいですね。
急登を登り切れば、すぐに天狗岳に着くわけではありません。その前に箕冠山(みのかぶりやま)、続いて根石岳(ねいしだけ)という2つの峰を越えていかなければなりません。上の写真は、右手の山が標高2,603mの根石岳、そして、その向こうに天狗岳が見えてきました。
ちなみに左下には、根石岳山荘もあります。ここは宿泊もでき、トイレもあります。オーレン小屋からは1時間もかからないのではないでしょうか。ここで小休止。ここからは右手の西天狗岳、下界には諏訪盆地を遠望することができます。
さて根石岳を越えると、ようやく天狗岳が目の前に見えるようになります。右側のピークが東天狗岳、そして左側のピークが標高2,646mの西天狗岳です。
上の写真は、東天狗岳への上り坂の途中で振り返った硫黄岳。「爆裂火口」の巨大な岩壁がはっきりと見えます。けっこう歩いてきたものですね。
そしてオーレン小屋から2時間ほどでようやく東天狗岳に到着。標高は2,646m。上の写真は東天狗岳山頂から見た蓼科山。蓼科も標高は2,531mもあるのですが、ずいぶん下に見えるのが不思議。
そして西に位置する西天狗岳へのルートが見えます。もうあと少し。
東天狗岳からは20分ほどで西天狗岳に登頂。朝、赤岳鉱泉を出発してから休憩を含めて6時間かかったでしょうか。でも南のほうを望むと、赤岳や阿弥陀岳などの峰々がとても美しいのです。苦労して歩いてきただけのことはありました。
居心地のいい山あいの秘湯「唐沢鉱泉」
実は西天狗岳から下山して唐沢鉱泉に向かったのですが、予想以上に時間がかかりました。2時間あまりで、ようやく唐沢鉱泉に到着。この日はけっこうな距離を歩いてきたので疲れました。
唐沢鉱泉は日本秘湯を守る会の名湯の宿でもあり、標高1,870mの森の中にひっそりと佇む静かな宿。そして”肝っ玉母さん“のような女将さんの宿なのです。
上の写真、「光苔群生地」と書いてあったので、岩と木の根っこのあたりの空洞を探してみましたが、このときは見つけることはできませんでした。希少な光苔も群生しています。
山小屋ではなく、ロッジ風の温泉宿といえるかもしれません。廊下には温もりを感じさせる、上品なドライフラワーがたくさん飾られていました。女将さんのレイアウトなのでしょうね。
実は西天狗岳から下りてくる途中、少し道に迷って時間がかかってしまい、宿の女将さんに電話をして、道を伺いながら予定より遅れることを伝えていました。丁寧に親身に教えていただき、ありがとうございました。
戸外にいるような不思議な浴室
泉質は単純二酸化炭素冷鉱泉。源泉温度は12℃といい、もちろん加温しています。とはいえ、さらさらとしたぬるめのお湯で、炭酸の小さなアワが肌に付いて心地よいのです。
ちなみに温泉と鉱泉の違いについて。湧出口での温度が摂氏25度以上か、鉱水1kg中に一定の量の物質が含まれていれば「温泉」といえます。こちらの源泉は12℃なので鉱泉となります。
唐沢鉱泉の湯船は総古代杉造りで、洗い場はヒバの床木を使っているそうで、とても落ち着く浴室なのです。さらに湯船のわきの苔むした岩には小さな木が萌え出ています。露天風呂ではないのですが、天窓もあり、なんとなく戸外とつながっているような雰囲気。
ほかにない、独創的な空間で、さすが日本秘湯を守る会の宿。ご主人や女将さんのセンスのよさを感じさせるのです。
日帰り入浴も受け付けています。10時~15時30分で大人700円、こども400円ということです。
女将さんのもてなしに癒やされました
食事処はラウンジも兼ねているようです。自然風景や記念撮影などの写真がいっぱい。
食事は女将さんの手料理でしょうか、自家製のニジマスの甘露煮に合鴨の燻製、そして地元の野菜や山菜が並びます。丁寧に作られているのがわかります。けっこうなボリュームで、ごちそうさまでした。ちなみに別注でシシ鍋やシカの刺身もあるそうです。
おいしい朝食もいただき、茅野駅まで下りる予定でしたが、この日は女将さんも買い出しの用事があるというので、なんと女将さんの車に乗せてもらい、茅野駅まで送っていただきました。本当にお世話になり、ありがとうございました。また御礼方々、八ヶ岳登山の折には宿泊させていただきたいと思っています。
[All Photos by Masato Abe]