三方をタホ川に囲まれた岩山に築かれた天然の要塞都市・トレド。画家エル・グレコが愛したことでも知られるこの町は、「もし1日しかスペイン にいられないのなら迷わずトレドへ行け」といわれるほど美しいことで知られています。
こぢんまりとした町ながら、スペイン・カトリックの総本山のカテドラルや丘の上にそびえるアルカサルなど、見どころ満載。16世紀のまま時を止めた古都のたたずまいに、誰もが感動せずにはいられません。
世界遺産の古都トレド
首都マドリードから高速列車でわずか30分、三方をタホ川に囲まれた古都・トレド。1561年に首都がマドリードに移るまで、スペインの政治・経済の中心として隆盛をきわめました。
560年に西ゴート王国の首都となったトレドは、711年からおよそ400年にわたってイスラム勢力の支配下に置かれました。それから1085年のアルフォンソ6世による再征服後も、1492年に追放令が出されるまで、キリスト教徒とイスラム教徒、さらにはユダヤ教徒がともにここで暮らしていたのです。
そんな歴史的の証言者たる、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教の文化が入り混じった独特の街並みを残す旧市街は、まるごと世界遺産に登録されています。
16世紀のまま時を止めた町並み
トレドは「16世紀で歩みを止めた町」といわれます。対岸から旧市街を眺めれば、アルカサルを頂点にして、段々畑のようにレンガ色の屋根が無数に連なる絶景が広がり、城壁に囲まれた旧市街には、迷路のように細い路地や坂道が張り巡らされています。
そして、細道と坂道のあいだからは、かつての繁栄ぶりを物語る重厚な歴史的建造物が顔をのぞかせます。
町を歩くうちに、アーチや幾何学模様など、イスラム美術に影響を受けた装飾が随所に見られることに気づくでしょう。異文化が融合したトレドの町並みは、この町が歩んできたダイナミックな歴史の生き証人です。
カテドラル(大聖堂)
トレドを代表する建造物のひとつが、天を射抜くかのような尖塔が印象的なカテドラル。フェルナンド3世の命によって1226年に着工、200年以上の歳月をかけて1493年に完成したスペイン・ゴシック様式の大聖堂です。
「カテドラル」とはスペイン語で大聖堂のこと。スペイン全土に数あるカテドラルのなかでも、スペイン・カトリックの総本山であるトレドのカテドラルは特別な存在です。
重厚かつ壮大な外観もさることながら、豪華絢爛な内部も圧巻。本堂左奥の宝物室には、総重量200キロにおよぶ金・銀・宝石などで装飾された16世紀の聖体顕示台が置かれ、内陣の祭壇裏にはナルシソ・トメが手掛けたバロック様式の傑作・トランスパレンテが待ち受けています。壮麗な芸術作品の数々に圧倒されているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまうはず。
サン・ファン・デ・ロス ・レイエス教会
1476年のトロの戦いでポルトガル勝利したことを記念して建てられた教会。おもにゴシック様式とムデハル様式をミックスしたイザベル様式と呼ばれるスタイルで建てられており、さまざまな建築様式が調和した独特の姿をしています。
フランボワイヤン・ゴシックと呼ばれる、ゴシック後期に見られる炎のような装飾や、内部の見事な彫刻が印象的。
アルカサル(軍事博物館)
トレドの町を見下ろす高さ548メートルの丘の上にそびえるアルカサル。その歴史は、11世紀にトレドを征服したアルフォンソ6世がここに要塞を築いたことにさかのぼります。その後13~16世紀にかけて大幅に改築され、度重なる破壊と修復を経て今日の姿となりました。
現在は軍事博物館として使われていて、古代ローマや中世の武器や武具を展示しているほか、アルカサル自体も大きな被害を受けたスペイン内戦の惨劇を今に伝えています。
エル・グレコが愛した地
周囲の自然景観と調和した美しく情緒的なトレドの町並みは、ギリシャ生まれの画家エル・グレコをも魅了しました。ベラスケス、ゴヤとともにスペイン絵画の3大巨匠として知られる彼は、1577年にトレドの地を踏んで以来、およそ40年間にわたってこの町を去ることはありませんでした。
巨匠画家が愛した地として知られるトレドには、エル・グレコゆかりの地が数多く残っています。
サント・トメ教会
エル・グレコの傑作「オルガス伯の埋葬」を所蔵することで知られる、サント・トメ教会。
絵画の下部は、聖アウグスティヌスと聖ステファヌスが地上に降りて伯爵の遺体を埋葬する場面を表しており、絵画の上部には、伯爵の魂がキリストと聖母マリアに捧げられる様子が描かれています。ぜひ、日本語のオーディオガイドとともに、迫力満点の名画を味わってください。
ファンならば、エル・グレコのアトリエを再現した空間や「トレドの景観と地図」などの傑作が見られるエル・グレコ博物館も必見です。
心に染み入るトレドの夜景
トレドの町並みがいっそうしっとりとしたムードに包まれるのが、夕暮れ時から夜にかけて。立体的なトレドの町並みが夜の光に照らされてきらめくとき、胸を打つような古都の情緒が薫り立ちます。
マドリードから日帰りで訪れる人も多いトレドですが、せっかくなら夜にしか見られない贅沢な風景を味わってみては。
エル・グレコが魅了され、筆をとった16世紀とほとんど変わらない風景が残るトレドは、まさにスペインの魅力が凝縮された町なのです。
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Haruna ライター
和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・コラムニスト・広報として活動中。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。半年間のアジア横断旅行と2年半のドイツ在住経験あり。現在はドイツ人夫とともに瀬戸内の島在住。
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