看板のない駄菓子屋
インターネットで群馬県の駄菓子屋について調べていると、屋号のない駄菓子屋の情報がありました。写真で見ると看板も見当たらず、純和風で歴史を感じる建物に、自動販売機とオーニング(日よけ)があるだけです。たまに屋号や看板のない駄菓子屋に出合いますが、外部の人間からすると、かえってそのほうが興味が湧いてしまうもの。「これは実際に行っていろいろ確かめたい!」と思い、訪ねてみることにしました。
埼玉の東部から向かうと、上毛の山々にかなり近づいたように感じられる邑楽郡邑楽町。正確な住所がわかっていたので迷うことなく、写真で見た通りの建物にたどり着きました。店内は土間と小上がりのある広い間取り。趣のある造りに圧倒されてしまい黙っていると、店主ご夫妻に「いらっしゃい」とにこやかに声をかけられました。
駄菓子は土間にある棚と、小上がりの端の部分を使い、かなりの品数が並んでいます。土間の部分から1本だけ新しい柱が立っていて、聞けば東日本大震災で梁に亀裂が入り、「危ないのももちろんだけど、そのせいで建物が歪んで2階の襖が開かなくなっちゃって(笑)」とのことで、しっかり補強したんだそうです。
100年以上続く、重要文化財級の店
原商店は、先々代の店主が日用品を売る雑貨店として創業。お店としては100年以上続いており、建て替えや増築を経て、現在の外観になったのは60年ほど前とのこと。周りに日用品を扱う店が増えたこと、小学校が近いことから、約30年前に専業の駄菓子屋にしたそうです。ご主人は野球好きで、店内には駄菓子のほかにジャイアンツ関連のポスターがたくさん。ご自身も子どもの頃から野球に打ち込み、指導者もしていたそうで、当時の写真や賞状が飾ってありました。
「うちは子どもたちから『かっちゃんち』って呼ばれるんです。駄菓子屋になった頃は私の母親が店主で、『カツ』という名前なので、その呼び名になったみたい。看板がないもんだから、そのまま定着しました。子どもの頃から通ってた子がいつの間にか親になって、それでまた子どもを連れてきてくれる。店を長く続けてると、そういうのがあるからいいよね。最近は、土日は親子連れのお客さんが多い。親がうちを『かっちゃんち』って呼ぶから、子どもも『かっちゃんち』と呼んでくれる。うちの親の呼び名がずっと残っているというのも感慨深いね」
高欄が見事な2階の造りに反応してか、写真撮影をしているとカメラのAIが「歴史的建造物」という判定をしてしまうほどの立派な建物。「いろんな所が傷んでて、もうボロボロだよ!」と笑いながらおっしゃっていましたが、古いながらもきれいに保たれており、大切にされていることが感じられました。お店や建物の歴史と、店主ご夫妻の明るい人柄に敬意を表し、誠に勝手ながら原商店を「駄菓子屋界の重要文化財」とさせていただきます!
住所:群馬県邑楽郡邑楽町藤川150-4
営業時間:9:00~18:00(日によってばらつきがあるとのこと)
定休日:不定休
[All photos by Atsushi Miyanaga]