山形で有名な駄菓子屋
子どもの頃に通った駄菓子屋の店主のことを思い返すと、優しい人もいれば、無愛想な人、厳しい中にも思いやりがあった人など、いろんな人がいて、それぞれしっかり印象に残っている気がします。山形市には「厳しくも優しい名物おばちゃんの店」として有名な駄菓子屋があり、少し調べただけで記事や映像がたくさん出てきました。ここはどんなお店なのか、そして店主はどんな人なのか。とても気になり、訪ねてみることにしました。
山形駅から南に2kmほどのところにある「みなみ公園」は、池と遊歩道、広場があり、桜の木が並ぶのどかな場所。その池のそばに、建物にもうひとつ屋根をかぶせたような外観の「はじめや」がありました。店内に入ると、店主と若い男性のお客さんが談笑中。何の話をしているのかわからないくらい訛りの強い話し言葉に、遠くの駄菓子屋に来たことを感じます。
店内は、壁側の棚に駄菓子が置かれ、それ以外はイスとテーブルで占められています。店外の軒のようなスペースにもイスとテーブルが複数あり、全て合わせると20席以上。これなら来店者が多くても長く居着けて、コミュニケーションも生まれやすいのではないでしょうか。聞けば、ここで宿題やゲームをしても良いとのこと。
駄菓子の棚には使い込まれた遊び道具も並び、これは公園で遊ぶ子たちへの貸し出し用なんだそうです。なるべく外で遊んでほしいということで、ゲームに関しては30分まで。メリハリが出るようにルールもきちんと作られていました。
「子どもたちも人間なので、いろいろ抱えています」
はじめやは昭和43年(1968年)に、食品や雑貨を扱う商店として創業。店名は「人の名前じゃなくて、初めて開いたお店だから『はじめや』」とのこと。20年ほど前にほぼ駄菓子のみを扱う業態に変え、現在に至るそうです。
「店を始めて50年経ったとき、『もう閉めて、あとはゆっくり暮らそうか』と家族で話したこともあったんだけど、やっぱりここで子どもたちの相手をするのが、何よりの生き甲斐なんですよ。なので、もうちょっと続けさせてもらいます。子どもたちもちゃんと人間なので、いろいろ抱えています。許すことが必要な子もいれば、叱ることが必要な子もいる。向き合ってあげるとその子の背景が見えてくるので、それぞれの子に合った声の掛け方がありますね。最近の子は標準語に近い言葉を使うから、山形弁でしゃべると通じないことがあるんですよ。取材があってテレビで放送されるときも、私が話してる言葉に全部字幕がつく。私、日本語しゃべってんだけどなあ(笑)」
※標準語話者には、すごく標準語に寄せた口調で話してくれます
子どもたちとのやり取りに着目した番組は、海外でも放映されたそうです。子どもからなにか相談されても、その子が理解できる範疇の良い答えを返すのは難しいもの。専門家がするような役割をこなせる駄菓子屋があったら、取材に来る人が多いのも納得です。聡明で、ユーモアがあって、愛情深い店主が運営する「はじめや」。駄菓子屋という枠を超え、保育園や学童保育のような、子どもを預かる施設に似た雰囲気を感じるお店でした。
住所:山形県山形市南一番町8-28
営業時間:平日13:00〜18:00、土日祝12:00~18:00
定休日:不定休
[All photos by Atsushi Miyanaga]