「失笑」の本来の意味、知っていますか?【正しい日本語解説Vol.42】

Posted by: 熊本沙織

掲載日: Mar 30th, 2023

社会人になると、新しい言葉を使う機会が増えますよね。使い慣れていない言葉を無理に使い、大事な場面で恥をかいてしまった……。なんていう人も少なくないのでは? そこでTABIZINEでは、知っているようで意外と知らない頻出ワードを徹底解説! 今回は、実は本来と異なる意味で使っている人が多い「失笑」ということばについて、日本語に関する著書も多数手がけている、国語講師の吉田裕子さんに解説してもらいます。



 

「失笑」の本来の意味は?


「失笑」の本来の意味は、笑ってはいけない場面などでこらえきれず吹き出して笑うことです。例えば、厳粛な式典中などでつい笑ってしまうことをいいます。

失笑の「失」には「失敗する」や「しくじる」という語義があり、例えば「失言」や「失策」などもこの語義に従って「誤って〜する」という意味で「失」が使われています。失笑の「失」もこれらと同じなので、「誤って笑ってしまう」という意味になります。

【例】
授業中だったので笑うまいとしたが、つい失笑した。

6割近い人が本来とは違う意味で認識している


「失笑」の本来の意味は、上で説明した通りです。しかし、文化庁が平成23年度に行った「国語に関する世論調査」では、「失笑」の意味を聞く質問に対して、本来の意味である「こらえきれず吹き出して笑う」と答えた人は27.7%。本来の意味とは異なる「笑いも出ないくらいあきれる」と答えた人は60.4%で、後者を選ぶ人が圧倒的に多いという結果でした。

失笑の「失」の語義を「失う」だと捉えれば「失笑」は「笑いを失う」や「笑いが失せる」とも解釈できるため、そこから「笑いも出ないくらいあきれる」という意味合いで認識する人が出てきたと考えられます。

また、近年では「あきれる」の意味からさらに派生して、冷笑や軽蔑した笑いと同じように「愚かな行動や言動に対して笑う」という意味で使用する傾向もあります。

「笑いも出ないくらいあきれる」や「愚かな行動や言動に対して笑う」という意味は、まだ辞書にはほとんど掲載されていません。しかし文化庁の世論調査からは、過半数の人が本来とは異なる意味で「失笑」の意味を認識している実態が明らかになっています。

このような状況から、本来の意味で「失笑」を使っても、あきれているとか、小馬鹿にしているという意味で使っていると誤解を受ける可能性があると考えられます。誤解を避けたい場合は、次に紹介する関連表現を使うとよいでしょう。

「失笑する」の関連表現は?


「失笑」の本来の意味である「こらえきれず吹き出して笑う」を表現するには、以下のようなことばがあります。

「こらえきれず吹き出して笑う」の類語
吹き出す・笑ってしまう・思わず笑う・我慢できずに笑う・噴飯もの

本来の意味とは異なる「笑いも出ないくらいあきれる」や「愚かな行動や言動に対して笑う」を表現するには、以下のようなことばがあります。

「笑いも出ないくらいあきれる」の類語
開いた口が塞がらない・あきれかえる・あきれ果てる・あきれてものも言えない

 

「愚かな行動や言動に対して笑う」の類語
冷笑・嘲笑・ばかにして笑う・さげすんで笑う・軽蔑して笑う・薄ら笑い

 

監修:吉田裕子先生
国語講師。都内大学受験塾・カルチャースクールで講師を務める他、書籍執筆、講演、企業研修、三鷹古典サロン裕泉堂の運営などの活動に取り組んでいる。NHK Eテレ『知恵泉』、NHK‐FM『トーキングウィズ松尾堂』など、テレビ・ラジオにも出演。著書に『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)や、『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)など多数。

吉田裕子先生の(株)裕泉堂 公式サイトはこちら

PROFILE

熊本沙織

saori-kumamoto

編集プロダクションと出版社での勤務を経てフリーの編集者・ライターに。ウェブメディア・書籍・雑誌・広報誌などで幅広く活動中。隙あらば航空券をウェブ検索し、旅のプランを練っている旅行好き。自宅に3台のたこ焼き機を所有する関西人。

編集プロダクションと出版社での勤務を経てフリーの編集者・ライターに。ウェブメディア・書籍・雑誌・広報誌などで幅広く活動中。隙あらば航空券をウェブ検索し、旅のプランを練っている旅行好き。自宅に3台のたこ焼き機を所有する関西人。

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