遊牧民が草原を移動する際の携帯食として「めん」が生まれた
アラビア半島
冒頭を読んで、「ええ、旅にめんは関係ないでしょう?」と思う人もいるかもしれません。しかし実は意外にも、めんは旅行と本質的に深い関係を持っているみたいです。
クリストフ・ナイハード著、シドラ房子訳『ヌードルの文化史』(柏書房)には、めんの生誕の地として、現在の近東を挙げられています。近東とは英語で「Near East」。直訳すると「近い東の地域」といった感じですね。ヨーロッパから見た、近い距離にある東の地域で、トルコ、シリア、エジプトなど旧オスマン帝国領を意味します。
この近東やアラビア半島に暮らすアラブ人(アラビア人)遊牧民が、ステップ(温帯草原)を移動する際の「携帯食」として、めんを生んだという極めて有力な定説があるようなのです。
アラブ人(アラビア人)が近東を支配し、地中海を制覇する段階になると、めんは地中海を渡ってシチリア島やイタリア本土へもたらされます。いわばパスタの始まりです。さらに小麦粉を練った料理として、地中海の真逆に位置するスペインにも、めんはもたらされたとも考えられています。イタリアに伝わっためん文化は、ドイツを舞台に起きた三十年戦争(1618~48年)の際に、戦争に介入したイタリア兵によってフランスにももたらされたようです。
遺跡からキビとアワを原料とするめんが発掘された
敦煌のシルクロード (C) Kattiya.L / Shutterstock.com
一方で、めんの波及は、近東から見て西側(イタリアなど)に伝わるよりも前、紀元前の段階で東に向けて、シルクロードを通り、中央アジア、さらに中国へと伝わっていきます。
タクラマカン砂漠の手前、カシュガルで枝分かれしたシルクロードは、敦煌で合流します。その敦煌から見て南にある青海省の省都、西寧市の近くにある喇家(らじゃ)遺跡からは、土器からスパゲッティのような形をした、キビとアワを原料とするめんも発掘されているといいます。
喇家は、中国のポンペイと呼ばれています。4000年以上前の大地震と水害によって滅びた、古代文明の様子が遺されている場所。その遺跡から、シルクロードを伝って近東からやってきたと思われるめん食の様子が確認できるのですね。
日本でラーメンが生まれる
当然、シルクロードをつたって中国までやってきためんは、仏教や思想、文字などと同じく、朝鮮半島を経由して日本にも入ってきます。
平安初期の天台宗の僧侶で、838年に入唐(にっとう)、つまり唐(当時の中国)に入った円仁の旅行記には、その時代にすでにめん料理が中国(唐)で庶民に食べられていたと記録されています。庶民が口にできるという状況は、めん文化の伝来からかなりの年月の経過が予想されます。
一方で日本に入っためんは、最初は僧侶や皇族、貴族など、限られた人にだけ食べられていました。
奥村彪生『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)によると、小麦そのものは弥生時代に日本に伝わっていて、奈良時代には本格的に栽培されていたといいます。さくべいという小麦粉を原料とした、めんのような食べ物も奈良時代には一部の限られた人に食べられていたそうです。
そのうち、日本でも庶民の間でめんが食されるようになります。江戸時代には屋台が登場し、小麦粉よりも安いそば粉でつくったそばが、労働者であふれた江戸の食を支えたのだとか。
文明開化が起こり、近代国家へと日本が様変わりします。明治、大正と時代を過ごす中で、台湾併合、朝鮮併合もありました。その際に、東アジアの国々から、労働者が日本にも入ってきます。自然に「中華そば」「支那そば」などの提供が始まり、結果としてこれらの流れを統合する食べ物として、ラーメンが生まれるのですね。
第二次世界大戦の敗北を受けて復興の時期に入ると、労働者たちが大都市に集まります。その胃袋を満たすラーメンが、いよいよ確固たる地位を築きました。
(C) Wacharin Soponthumkun / Shutterstock.com
さらにラーメンの「母国」日本では、安藤百福によってインスタントラーメンの「チキンラーメン」や、カップめん「カップヌードル」が発明されます。
そのカップヌードルがまさに2021年、誕生から50周年を迎えました。5年前の45周年の段階で、世界でカップヌードルは400億食を突破したといいます。
冒頭でも書いたように、外国人の多い機内で機内食として出された時も、世界中の人が当たり前のように食べていました。
近東で生まれためんがシルクロードを伝って中国に入り、朝鮮半島を経て日本に輸入されます。その食文化が日本で独自の発展を遂げ、カップめんが生まれます。
そのカップめんが今度は、カナダ東部のモントリオールから東京の羽田空港を目指す機内で、世界の旅行者を喜ばせているわけです。地球規模のうねりが感じられる、めんの歴史物語だと思いました。
そんなカップめんはもちろん、現代旅行の携帯食としてもすごく適しています。筆者も海外旅行時のスーツケースにはかなりの確率でカップめん、具体的には『赤いまめきつねうどん』(ミニサイズ)を入れます。海外旅行で心身ともに疲労した時にホテルの部屋でお湯を注ぎ口にすると、なじみ深いうどんの汁が細胞レベルから再起動をかけてくれるような感覚が得られます。
肉類を使った食品の持ち込みが厳しい諸外国にも、安心して持ち込めるともっぱらの「うわさ」です。現に筆者も今までに没収された悲しい経験はありません。
あくまでも個人の責任でお願いしますが、旅に即席めんを持参し、歴史に思いをはせながら口にして、旅先の疲れやホームシックを吹き飛ばしてみてくださいね。
[参考]
※ おかげさまで45周年。「カップヌードル」ブランドが世界累計400億食達成! – 日清食品 ※ クリストフ・ナイハード『ヌードルの文化史』(柏書房)
※ 大塚滋『パンと麺と日本人』(集英社)
※ 奥村彪生『日本めん食文化の一三〇〇年』(農文協)
[Photos by Shutterstock.com]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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