おでんと鉄板焼きもある駄菓子屋
静岡市の昔ながらの駄菓子屋の特徴といえば、おでんが置いてあること。以前訪ねた「かどや滝波商店」に続いて、同じ葵区内にある、おでんのある駄菓子屋へ行ってみることにしました。駿府城の西側、一番町の住吉公園のそばにある「やました商店」は、看板や自動販売機がなく、目印は営業中と書かれたのぼりだけ。事前におおよその場所を聞いていても、車移動だとうっかり通り過ぎてしまいそうな外観です。
お店は入口が2カ所あり、向かって右側の扉から入ると鉄板焼きの調理場とカウンター、左側から入ると駄菓子売り場になっていました。アイスケースの中身は、静岡市周辺でしか流通していない飯塚製菓のものが中心。店内中央にはおでんの鍋があり、真っ黒の汁の中で具材が煮えています。早速おでんを取り、焼きそばを注文すると、常連さんや子どもたちがやってきて、店主はとても忙しそう。この場所のいつもの風景なのかもしれませんが、皆が訛りのある言葉で会話する中、静岡おでんとご当地アイスをいただくのは、旅人にはかなり贅沢な時間でした!
鉄板焼きメニューを導入して万引きがなくなった
やました商店は、店主・山下さんのお母さんが昭和45年(1970年)ごろに創業。駄菓子屋を営んでいた人から引き継いだのが始まりだったそうで、その時点ですでにおでんも販売していたとのこと。現在の形になったのは平成22年(2010年)ごろ。万引き被害が続出し、ショックを受けて廃業しようとした先代店主に、「せっかく長い間やってきたんだし、自分も手伝うからもうちょっとやってみようよ」と山下さんが提案。内装や什器の配置を変え、焼きそばやたこ焼きなどの鉄板焼きメニューを導入して2人で店に立つようになると、特に問題も起こらなくなったそうです。
「日本中どこでもそうだと思うんだけど、『悪さするやつが多い学年』というのがあるんですよ(笑)。母親も、ちょうど衰えてきたころにそういう連中に当たっちゃって。ここは自分にとっても、もちろん母親にとっても大切な場所だから、そんなことで失くしたくないと思って引き継ぎました。今はもう平和そのものです!」
子どもの数が減っても駄菓子屋のお客さんは増えている
「公園を挟んだ向かいにある『番町市民活動センター』は、元々は私の通ってた小学校だったんですよ。子どもの数が減って学校の統廃合が起きたりして、環境はどんどん変わっていくんですけど、近所に駄菓子屋がぜんぜんないから、子どものお客さんは逆に増えてる感じがします。みんなのためにも、元気に続けていきたいですね」
店内の壁には、昨年(2020年)98歳で亡くなられたという先代店主の写真が飾られています。その顔立ちは、山下さんにそっくり。「お母さんとすごく似てますね」と言うと、「それ、いろんな人によく言われます」と照れくさそうに返してくれました。静岡の伝統的な駄菓子屋文化を持つやました商店。ここまでの道のりに、そして、お2人の顔立ちに、親子の絆を強く感じたお店でした。
住所:静岡県静岡市葵区一番町32
営業時間:11:00~17:00
定休日:不定休
[All photos by Atsushi Miyanaga]