細部にこだわりが感じられる和モダンな店構え
駄菓子のメーカーが多く集まる愛知県から濃尾大橋で木曽川を渡ると、そこは岐阜県羽島市。ここに、最近できた雰囲気なのに看板はなく、情報発信も特にしていない、昔ながらの駄菓子屋のエッセンスを感じるお店を見つけたので訪ねてみました。
近い距離にお寺が2軒建ち、お寺の運営する認定こども園もある羽島市の正木町新井地区。その認定こども園のすぐそばに、駄菓子屋がありました。看板はないので、軒とベンチ、自動販売機が目印です。中部地方の駄菓子屋にある飲料自販機は「チェリオ」が多いんですが、こちらはコカ・コーラ。よく見るとベンチやサインボードもコカ・コーラで統一されていて、和モダンな外観も含め、細部にこだわりが感じられます。
店内は10畳ほどの天井の高い空間で、入って正面がレジカウンター、両脇の壁沿いに駄菓子が置かれています。子どもたちが取りやすい高さを意識して作られている棚には、流通している地域が限られている、関東ではあまり見かけない駄菓子も並んでいました。壁にかけられた大量の仮面ライダーのフィギュアは、店主のコレクションとのこと。今後、値段を付けて販売する予定なんだそうです。
自分自身が楽しめる要素も交えて運営
応対してくださったのは男性店主の尾関さん。平成24年(2012年)、勤めていた会社を早期退職し、自宅のガレージを改装して駄菓子屋を始めたそうです。店名は「駄菓子屋パッソル」で、初めて乗ったヤマハのバイクから取ったとのこと。尾関さんはいわゆるハウスハズバンド(主夫)で、4人のお子さんがいるお父さん。駄菓子屋を開け、近所の子どもたちの相手をしつつ、自身の子どもたちの面倒も見ているとのことでした。
「駄菓子屋には楽しいイメージしかありません。いつ行ってもみんながいて、最高の遊び場でした。なので子どもの頃からずっと駄菓子屋という存在に思い入れがあって、元々、定年退職後には駄菓子屋をやるつもりでいたんです。いろんな都合で予定よりだいぶ早くなりました(笑)。夏はかき氷、冬は壺で焼き芋をやったり、みんなが喜ぶようなことはもちろん、自分自身が楽しめる要素も交えて運営しています。子どもたちの放課後の過ごし方は多様化していますが、どんな時代になっても駄菓子屋はあり続けてほしいので、パッソルを続けることで文化の維持をしていこうと思います」
趣味がDIYやバイクいじり、そして家事や育児を担う男性の駄菓子屋店主、ということで、自分と似た背景を持っていた尾関さん。話題がガッチリと噛み合い、長話に次ぐ長話でかなり長時間滞在してしまいました(笑)。
昔ながらの駄菓子屋を訪ねていると、「自分の子の面倒を見ながら在宅でできる仕事を、と思って始めた」という声が多く聞かれます。こちらのお店を訪ねたことで、「今の時代でも似た動機で作られる駄菓子屋がある」と知ることができました。利益の生み出し方はやや難しい商売ですが、子育て世代の在宅ワークとして、駄菓子屋は時代とともに還流しているのかもしれません。
住所:岐阜県羽島市正木町新井563-1
営業時間:15:00~日没
定休日:日・祝
[All photos by Atsushi Miyanaga]