由緒のありそうな店構え
琵琶湖の南東部に位置し、近江富士の姿も間近に見える滋賀県野洲市。問屋さんの多い京都に地理的に近いこともあってか、周辺の自治体も含め、わりと駄菓子屋が見つけやすい地域です。そんな野洲市で、外観も店名も、昔ながらの趣たっぷりのお店があるという情報を得たので訪ねてみました。
JR野洲駅から北東へ2.5kmほどの場所にある住宅街。用水路が流れる通り沿いに、目的の駄菓子屋がありました。重厚感のある瓦と広い間口からなる、由緒のありそうな店構え。店名はどこにも掲げられていませんが、情報によると「田中安兵衛商店」で、これまた歴史を感じる名前です。
店名は創業した祖父の名前から
土間状で、間口と同じ幅の広い店内。左半分に売り場と店主のいるカウンターがあり、右半分は在庫を置くスペースになっていました。品数が多いながらも整った印象で、駄菓子以外にも飲料やアイス、大きめの袋菓子も置かれています。
壁を広く陣取るショーケースや、「きな粉」と書かれた一斗缶など、お店の中は気になるものだらけ。早速店主にお話を伺うと、田中安兵衛商店は昭和10年(1935年)ごろの創業で、店主は3代目。店名は創業した祖父、田中安兵衛さんの名前から付いたそうです。調味料やお菓子の量り売り、進物(贈答品)、乾物などを扱う商店として始まったとのこと。
挽きたてのきな粉を量り売り
現在は、ほぼ専業の駄菓子屋となったため、進物が展示されていたケースは昔の販促品の展示コーナーに。駄菓子売り場には、量り売り時代に使われていた什器が隠れていました。また、その時代の名残りで、挽きたてのきな粉を量り売りで販売。早速購入させもらうと、開いた一斗缶から、香ばしくおいしそうな香りが店中に広がりました。
「今の時代じゃ考えられないけど、私は小学生のころから店番をしていました(笑)。進物は何かと必要な時があるし、単価がそれなりに高いので、昔はよく繁盛していたと記憶しています。80数年の中で売り物が変わっていったというのは、世の中が変わっていったっていうことの現れだと思っていますよ」
「自分のあともお店が続いてくれたら」
「お店が開いてると誰かしらは来てくれて楽しいので、それが長く続けている理由ですかね。あとはまあ、話す、計算する、というのが認知症の予防になります(笑)。継いでくれるかわからないけど、一応4代目もいるので、自分のあともお店が続いてくれたらいいなと思っています」
居合わせたお客さんが、「99歳のお婆さんからお使いを頼まれた」と、煎餅を買っていきました。聞けば、かなり長い期間、同じものをここで買い続け、常食しているとのこと。お客さんの年齢からも、お店ができてからの歳月が感じられました。「名字+商店」という屋号の駄菓子屋が多い中、創業者のフルネームを背負った田中安兵衛商店。安兵衛さんが作り育てたお店は親しみを込めて「安兵衛」と呼ばれ、令和の時代もたくさんの人に利用されていました。
住所:滋賀県野洲市永原561-1
営業時間:9:30~18:00
定休日:月曜日+不定休
[All photos by Atsushi Miyanaga]